蝉時雨
 何がおかしかったわけではない。彼はそういう人間だった。

 生き物が全て等価にしか見えない。優劣も哺乳類も肉食も人間も微生物も昆虫も、他人も自分も。全部生き物として同じである、誰一人何一つ特別なんてない。

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 故に、人間に権利なんてない。

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 あるのは生死を決める搾取者。

 自らがそれであると主張したわけではない。そんな固定概念を有したことが問題なのではなく、他者もそうであると誤認したことが間違いで取り返しがつかないのだ。

 搾取する側は一方的で凶悪で何にも耳を貸さない絶対的な存在だ。

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 たとえば、虐待する親。

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 たとえば、尊大な祖父母。

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 たとえば、傲慢すぎる姉弟。

 彼らは自分を搾取する。
 自分を殺すことを当然とし主張も反論も抵抗も認めず糧に代えるハイエナ集団。笑いながら餌と割り切って貪る身内という敵害者。

 生きるという我を通すためには、■■しかなかった。たとえ肉親でも、家の主でも、血を分けた姉弟でも、敵ならば――

 迷う必要はなかった。

 寝込み不意打ち毒物。凶器の選択、先制する手段、弱点の模索。肉体の強化、精神面の補強、対応策を瞬時に練れる思考判断力。相手が一流以下であると知る手段も片鱗も確認しながら、それを彼はかなぐり捨てた。

 ああ、強大な敵よ。

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 少年は適わぬと信じて。

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 奴らこそ絶対の搾取者と盲信し。

 そのため、彼は誕生した。
 絶対位置の存在を殺害することによって。





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