蝉時雨

 西から太陽が昇り、東からも太陽が昇り。哀れ顔を突き合わせた二つの恒星は互いに頭を割って砕けてしまった。

 東から月が降り、西からも月が降り。仰天顔をぶつけた二つの衛星は、欠落しあった頭を嵌め併せて海に落ちた。

 明るさの失せた空は、雲みたいに自由になると宣言してどこかへ走り去った。

 導きを無くした星は、太陽よりも輝いてやると火を点けて灰になった。

 やがて、森は酸素を吐き出すことに退屈を覚え、水は綺麗に化粧をはじめ、動物は泳げなくとも海に飛び込み、羽根がなくとも崖から飛び降り、神になろうと命を放り出した。

 ・・
 世界が狂っている。

 母親がくれた人形を抱いて、少女は震えた。

 その母は、私は実はライオンだったのだサーカス出身の、と言い出してキャンプファイアの中に駆け込んで黒焦げになった。

 ・・ ・
 世界も人も狂っている。

 父親がくれた人形に抱きつき、少女は涙した。

 ちなみに父は、男にはやらればならない時がある、といってテロを画策し本物のテロに巻き込まれて瓦礫に沈んだ。

 誰も彼もが少女を置いていく。

 最初に消えたのは友達とペットだった。散歩中、急に駆け出した少女の愛犬は、出刃包丁を振り回す同級生の咽笛に噛み付いて、力の限り振り回された包丁に胸を一突きにされ、互いに命を落とした。

 呆気なく他愛なく訪れた悲劇。

 だが悲劇は続く。終わらない悲劇は惨劇だ。

 はじめに愛犬とクラスメイトが殺しあった。次にお隣さんにダンプカーが故意に突っ込んで一家全滅、突然教室でサバイバルゲームが始まり半数が死去、帰り道で片言の外人が空はいいといって毒を飲み、一週間後に母が、昨日父が死んだ。





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