【短編】鬼神の森
 


 ……今年は、酷い年だった。

 春は、暑く。

 夏は、寒く。

 秋に入ったばかりだというのに、時雨ばかりが降った。

 稲は、育だたず。

 野菜も採れず。

 しかし。

 情け容赦無い年貢(ねんぐ)の取り立てに、収穫を支払うと。

 村人たちの取り分は、ほんのわずかしか、残らなかった。

 ……これでどうやって冬を越せと言うのか。

 来年の豊作祈願のため。

 今年、数えで15になったサヨが。

 この深山に住まうという、鬼神のもとに、嫁ぐことになったのだ。

 しかし、それは、ただの名目で。

 実は、口減らしのために、山に捨てられた。

 家族全員が、春まで食べつなぐ食物はなかったから。

 病弱で、畑仕事の出来ない、サヨが死なねば、家族の皆が飢えて死ぬ。

 今は、そんな時代だった。





 ……なのに。



 その まま放っておけば。

 飢えが。

 寒さが。

 あるいは、獣達が。

 サヨを死に導くはずだったのに。

 その母だけが、サヨの命を諦めきれずに、一人、深い山に分け行って来たのだ。

 そして。

 ――自分は熊にでも、襲われたらしい。

 母は、ぼろぼろに傷ついた身体を引きずって、ようやく。

 サヨの居る、半分朽ちた祠の前にたどり着き……倒れたのだ。



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