烏丸陽佑のユウウツ
・プロローグ

「……陽佑さ〜、ん…」

「お、いらっしゃい。どうした?」

…何だ?鈍よりしてるなぁ。と、言うより。ちょっと違うな…。

「…うん……はぁ」

「どうした…ん?まあ座れよ。何か飲むか?どうする?」

…気怠い感じ?とでも言うか…。どこか艶っぽいな…。まさか。

「はい。ゔ〜ん…取り敢えず…モスコミュールください」

先にバッグを置くと、よっこいしょと言わんばかりに隣の椅子にいかにも重い腰を下した。

「ん、解った」

今日は一段と闇が深いのか?だけど物凄く落ち込んでるって感じとはちょっと違うようだな。


「ほい、どうぞ」

「…」

何だ…陽佑さ〜ん、なんて、甘えた素振りだったのに。んん…まぁ、放っておくか。話したくなったら話すだろう、だから来たんだろうし。昔みたいに話せない事なら…話さないだろうし。
…そうだ。

「梨薫ちゃん、ご飯は?済んでるのか?」

いつも通りの事を聞いてみた。

「…」

あ。どうした。これは重症なのか?食べる事なのに、首を縦にも横にも動かさないなんてなぁ。一体何があったんだ。んん…黒埼君に聞いてみてもいいんだが。いや、彼だって何でも把握してるって事でもないか…。んー、どうしたもんかねぇ。…お、そうだ。いい物があるじゃないか。これだ、これ。

「あのさぁ梨薫ちゃん。貰い物なんだけどさ、クロワッサンなんて食う?何だか詳しくは知らないけどさ、バターの香りが凄くして旨いって評判のやつらしいぞ?どうだ、ん?食べるか?」

ガサガサと紙袋を取り出した。さっき貰って、調理台の下に置いていた物だ。チラッと取り出して見せた。

「……食べます…むしろ、それ、食べさせてください。食べたいです。食欲はあるんです」

フ。…ハハハ。いい反応じゃないか。流石、旨いと評判の物にはしっかり食いついて来たか。よしよし、いいぞ。

「じゃあ、ちょっとだけ待ってろよ。あ、一先ず、モスコミュールはまだ置いとけ、飲むな。いいな?」

わんこ相手ではないが、待てと手振りをしてみせた。


一つはノーマルのまま、一つは玉子とベーコンとレタスを挟み込んでみた。

「…よし、と。お待たせ。こんなんでどうだ?あとは…アイスティーにするか、な?」

ん?また静かになったな。一人で居ると何かと考え込んだか。あ、どっちもそのままで食べたかったのか?
目の前にクロワッサンの皿を置いた。ざくざくと砕いた氷をロンググラスに入れ、熱い紅茶を注ぎ入れた。ガシャガシャと氷が溶けて崩れた。ミントを乗せて出した。

「…有り難うございます」

「ん。とにかく食べる。何事も先ずそれからだな。遠慮なんかしないだろ?」

「うん。頂きます。…はぁ。バター、香りますね。…美味しそう」

パンの話になったら何とか話すんだよな。少し温めたから、香りが立ったんだな。一つ手に取り口に運んだ。パリッといい音がした。んー、食欲はあるって事で。それはいい。
では言い辛くさせているのは…やはり内容が内容だという事か。
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