烏丸陽佑のユウウツ


「…ふぅ。美味しかったです。ご馳走様でした」

「そうか。あ、これは特別サービスだからな」

「すみません、いつも…有り難うございます」

完食だな…良かった。空いた皿とグラスを引いた。
気にはなっても、こっちからはこれ以上問う事は無い…何も聞かないでいると案外話したくなってくるもんだ。お腹もそこそこ満たされた事だし。

「…陽佑さん、…」

「…ん?どうした」

話したくなったのか。グラスと皿を洗っていた。手を拭いて戻った。モスコミュールを口にしていた。

「変というか…はぁぁ、物凄ーく、濃くて…長くて…、それに、もしかしたら現実に起こりそうでもあり…はぁぁ…そんな夢を見たんです」

あ、…夢ね…鈍よりの原因は夢か…。なるほどね。それが話し辛い内容だという訳か。

「こんな事話したら、またそれは夢だからって事にはなるんですけど。何でもありだから…でも、はぁぁ…、思い出しても…あまりに生々しいんです。はっきりしていて長くて。どこまでが夢でどこからが現実なのか、凄く混乱したんです。でも、目が覚めて居た場所は私のベッドだったし…、夢だと直ぐ解ったのは解ったんですけど…んもう…はぁ…とにかく大変でした…、ぐったりして」

んー…生々しい夢ねー…。この手の話は、騒動の始まりのようで…。前に彼の夢の話を聞いた後に、告白のラッシュにもなった事だし。今回は一体どんな夢だっていうんだ?

「陽佑さんも。…初めて陽佑さんの夢を見ました」

「俺?登場人物に、俺?」

大袈裟ではなく、意外に思えて自分を指して聞き返した。

「…うん、陽佑さん」

へぇ、それは…まぁあれだな。何かしら印象に残っていたからってくらいの事だろ。…ん、俺が印象に残った?俺、も?って、確か言ったよな。

「黒埼君と陽佑さんがここで話していました」

も、は、黒埼君が一緒だったからか。ま、ない事ではない場面だな。あー?それが“濃い”って事か?俺と黒埼君が…濃い?…ぐったりする程の夢?どうしてだ?なんでだ。ん゙ん゙…男二人が濃いとなると…アレか…縺れ合ってたとでもいうのか…。
夢は何でも有りだからな。このカウンターでか…、それとも、裏のベッドでか?。…いやいや、流石に夢でもそれはちょっと…あ。いや…あ、いやいや、ないだろ…。

「へぇ。変ていうか、夢としては珍しい夢だったんだな」

「うん…陽佑さんも黒埼君も初めてかな…見たの。……私、返事というか、部長に好きになっていると思うって言って、おつき合いをお願いしたんです。前の日から考えていて…堪らず」

言い終わるとじっと見られた。…お…そうなのか。…な、に…夢の話はもう終わってたのか…。んー…そうか…そうなったのか…とうとう部長に決めたって事か…。なるほどね。…へぇぇ。

「…そしたら部長室で、あ、言ったのは部長室だったので、駄目だって言うのに、部長……朝から濃厚なキスを一杯、繰り返しされて。帰りに一緒に帰って、着替えるのも待ってくれなくて。お店でワンピースを買って貰ってそれを着て、ホテルに行ったんです」

ホ、テル?…はぁ。もう?その日に…そりゃあ男としては待てないわなぁ。待ちに待ったいい返事だ。朝、濃厚なキスをして、その日にホテルねぇ。よく、そんなキスをしておいて、仕事が終わるまで待てたもんだ。ていうか、よく、キスだけで止めたよな。部長室ならちょっと、できたんじゃないのか?…。下衆の想像だな、はぁ…。
好きって返事が貰えたら、向こうはそれを待ち望んでいた訳だし。まあ、必然だよ…。ホテルは必然。…行っちゃったか…そうか、はぁ…ホテルねぇ…。

「おつき合いの記念みたいに、ホテルのレストランでご飯をすると思ったんですよね」

「…ん?あ、あぁ、まあ、そうだな。始まりだもんな」

そんな訳あるか、とは、露骨過ぎて言えないから濁したけど。まずご飯もするにはするか。コース料理とか、かな。部長さんだから、突然の告白で時間に余裕が無くても、そこは何とかしたに違いない。だけどそれはまぁ…あくまで"メイン"の前の前菜といったところだろうから…。

「そしたら、連れて行かれたのはレストランじゃなくてスイートルームで。そんな部屋ちゃんと取ってあって、部屋には凄い料理があって。それから、見てって、連れて行かれて。そしたら初めて見たんですけど、バスタブに薔薇がびっしり敷き詰めたみたいに入れられていて」

おーおー凄いな。流石、部長さんじゃないか。梨薫ちゃんと初めてだから、抜かりなく何もかも用意したって事か。初めてが忘れられない思い出になるな。ちゃんとしてる…流石だ。

「私……沢山エッチしちゃったんです。部長…何て言ったらいいか、凄くて…はぁ」

ぁあ゛、おい、沢山エッチだと?…は?俺とした事が、グラスを拭く手が一瞬止まってしまった。

「お、おい、何も……そこは、詳しく言わなくていいとこだ、別にいいよ」

だから、それが、元々部長さんには“メイン”な訳だし…。

「え?あ、はい。でも……きりがないみたいに…一杯ですよ?」

……知るかよそんなの。で?…良かったのか。

「はぁぁ…バスタブに運ばれても、虐めるみたいにされちゃって。それが…」

顔を覆って、頬に手を当てちゃってさ。された事でも思い出してるのか…。はぁぁ、もういい……、これ以上は止めてくれよな?したくもないのに想像するだろうが…。詳しくは言うなって言ってるだろ。…はぁ。虐めるみたいにって…どんなだ。だから、言わなくていいっていってるんだ、色々と想像するだろうが…。
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