烏丸陽佑のユウウツ
「…あら、珍しい人に会ったわね。…おはよう。まだ少しは縁があったみたいね」
…あ、陽佑さんのお母様、馨さん…会っちゃった…。ここに居たら会っちゃうか。
「おはようございます」
階段に腰を下ろして海を眺めていた。
「随分、早起きじゃない?今朝来たの?朝日を見に来たの?平日なのに大丈夫なの?有給休暇でも取ったの?」
フフ。質問攻めね。平日にこんなところに来てたら、様子が変だって、見たら解っちゃうもんね。
「はい。消化してないので」
「やっぱり。いいご身分じゃない?お給料貰って休みなんて」
「…それが有給休暇なんで」
あ、ゔ…透かさず返事をしたから口答えしたみたいになったかな。ごめんなさい。
「風邪、ひかないようにね」
「え?」
「今朝は少し寒いわ。…随分慌てて来たのね。そんな、羽織る物一つ持たない格好で居るなんて」
…あ。とにかくこっち向きのバスに乗ったから。何とも思わなかった。言われたら寒いかも。
首から肩にかけ、巻き付けるようにしていたストールを取り去ると、肩に掛けてくれていた。…あ。
「地味だけど、寒いよりはマシよ?使いなさい…あら、案外いいわよ?服と似合ってる」
「あ、駄目です。私ならこのままで平気です。風邪とはずっと縁がありませんから。これではお母様が風邪をひきます」
「私なら大丈夫よ。ゲンが居るわ。追い掛けて走れば汗をかくくらいよ?それにね、今日は、あそこに居る人と一緒だから」
…え?言われて目線を辿れば、ロマンスグレーの長身の男性がゲンのリードを引いていた。
「二人で散歩に出ましょうって言ったのに、そしたらゲンも連れて行くって。利かないの。まだ慣れてないのよ?ゲンの方がちょっと警戒してるでしょ?…フフフ。急に現れた胡散臭いオヤジが、って思ってるのよ。ゲンの主人は私だから。ゲンに認めて貰うにはまだまだ親しくならないと無理よね。…ゲ〜ン!見て?フフフ。ゲンに目一杯引っ張られてる。あ、大丈夫かしらね」
あの男性が、陽佑さんの…多分そうだと思う。では、今は二人一緒に居られる…許される状況になったという事…。だとしたら、何だか素敵…。
「何か聞いてる?」
「え?…何をですか?」
瞬時に惚けてしまった…聞いてると、言わない方がいいと思ったから。
「…そう。聞いてないならいいわ。では…まだ、お店のお客さんのままの梨薫さん、よね。じゃあね。ここで会った事は陽佑には言わないから。…貴女も相変わらず、自分を出せない人ね。随分と、我の強い人…」
え?あ、ストール…。どうしよう。行っちゃった。
…我が強い。それはよく解っている。…素直になれない。そんな自分も…この気持ちの行き先も、よく解らない。私は…。
近付いて来ていた男性に駆け寄り、お母様がリードを引き取ると、男性は透かさず上着を脱いですっぽりと包んで肩を抱いた。空いている手を握り、睦まじく戻って行った。