いつか羽化する、その日まで
しかし、恥ずかしさで体温が上昇していることを感じながら震える私にかけられたのは、意外な言葉だった。
「また連れて来てあげるから、まずは最初に気になったものを選んでみなよ」
「また……?」
その言葉の意味をまばたきしながら考えていると、にっこり笑顔のまま頷かれる。
「……こんなに真剣に選んでもらえるなんて、今日は連れて来て良かったなあ」
目が合ったままでなければ、きっと彼の独り言だと勘違いしていたことだろう。村山さんは笑っていた目を更に細めて、独り言を呟いているかのような声を出していた。
祝杯だなんて言われて突然連れ出されて。
目的地すら教えてくれない村山さんは、相変わらず我が道を行く人だけれど。
ーー時々垣間見える優しいところは、嫌いじゃないと思ってしまった。うかつにも。
「……私、今日はラーメンにします」
「今日は、ね」
強調した言い方に気付いたようで、村山さんは先ほどより大きな声で笑った。
その隙に小林さんが店員さんを呼んでくれていたので、慌てて謝る。
一緒になって笑っている場合じゃなかった!
「すみません、私……!」
「いいよ。それに無理やり連れてきただろ? 今日は立川さんの分、村山が奢るって言ってたから、大盛りにしとく?」
な? と小林さんは隣に目配せをしている。何か言いたげな村山さんだったが、肩をすくめて少し笑っただけで何も言わなかった。
「ふ、普通盛りで大丈夫です……」
こうして二人にお世話になりっぱなしの私は、明日から朝の掃除に参加しようと密かに決意するのだった。