いつか羽化する、その日まで
「それは良かった。村山に見つかる前に食べようか」
「そうですね!」
意気投合して、思わず笑いが漏れる。
こうして私たちは、秘密を共有するかのように束の間のコーヒーブレイクを過ごすことになった。
ひとくち食べる度に口の中でプリンがとろけていく。甘すぎないこの加減も絶妙だ。
夢中でスプーンを動かしていると、何だか視線を感じる。振り向くと、小林さんとばっちり目が合った。
「本当にうまいって顔してる」
からかうような目の色が、私をまっすぐ射抜いた気がして。思わず目を伏せてしまった私は、早鐘を打つ胸を押さえながら深呼吸を繰り返した。
「い、一気に食べたら苦しくなっちゃいました!」
「いくら好きだからって、限度があるだろ」
苦し紛れの言い訳を真に受けて呆れている小林さんに、ほっとしながら。
ーー飲み込んだコーヒーの、苦いこと。