いつか羽化する、その日まで

「インターン、ですか?」


おすすめの案件がある、そう切り出されてカウンターに座るよう促された私の目の前に置かれた資料。そこには、〝今年度の地域インターンシップについて〟の文字が大きく印字されていた。

インターンシップ。その言葉に聞き覚えのあるような、ないような。香織から先日レクチャーされた話の中にあったのかもしれないが、詰め込まれすぎて記憶が曖昧だ。具体的に何をするところなんだろうと考えていると、神田さんは待ってましたとばかりに口を開いた。


「ひとことで言えば、職場体験に近いかな? 興味のある分野の会社であればなお良いかもしれないけれど、最初は興味がなくたって、もしかしたら運命的な会社に出会えるかもしれないよ」

「はあ……そうなんですか」


詳細を聞いているうちに、段々と不安になってくる。実際の企業に出向くだなんて、まだまだ就職活動初心者の自分にできるのだろうか。


「だあいじょうぶ。参加者は誰だって初心者だし、思い切って挑戦してみたら? 経験する・しないでは確実に今後の活動に差がつくよ。モチベーションも上がるし」


さすが就職課の職員だけあって、神田さんはその気にさせるのが上手だった。それならやってみようかな、と心の中の天秤が微かに傾き始めたところを見逃さず、押しに押してくる。


「そうそう、今日きたばかりなんだけどね、立川さんにぴったりな案件があるの。期間も夏休み中だし。募集人員がたったの一名なんだけど、まだ決まってなくてねーー」


そして、気付けばその場で申し込みをしている自分がいた。

ーーもしかして私って、あやしげな壺とか買わされちゃうタイプ?

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