いつか羽化する、その日まで

「つ、疲れた……」


バタンとドアを閉めるや否や、私はぐったりとうなだれる。


「ほらほら、まだ敷地から出てないんだから、しっかりしてよ」

「……ハイ」


こんなに疲れたのは一体誰のせいですか、と喉元まで出かかったが何とか堪えた。咄嗟に深呼吸。

そんな私を横目で確認すると、村山さんはエンジンをかける。


「さ、シートベルト締めて。出発するよ」


のろのろと手を動かして、ベルトを引っ張る。カチャリと音がすると同時に車は発進した。


「いやあ、楽しかったねえ」


田中建設を後にして最初の交差点を左折すると、村山さんは堰を切ったように話し出した。


「……どこがですか」


ポツポツと降り出した雨が、フロントガラスに小さな水玉模様を作る。私は、その中のひとつをじっと見つめた。


・・・・・

ーーあの後、私たちは宮下さんの案内で社屋に通された。

以前マナカ商事を通して重機リースの取り引きがあり、窓口を担当したのが村山さんだったそうなのだ。宮下さんとはその時に知り合ったらしい。

今日私たちは田中建設の要望により、更なるコスト削減に向けての契約の見直し案と新しいプランを紹介するために、資料やパンフレットを持ってきていた。村山さんが分かりやすく従前との違いを説明している。

やはりどの業界もコスト削減にかなり力を入れているようだ。私は、メモを取りながら二人の会話を真剣に聞いた。

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