いつか羽化する、その日まで

あらかた案内が終わりひと息つくと、宮下さんは物珍しそうに私に視線を向ける。


『村山さんが女の子を連れてくるなんて驚きましたよ。大学生?』

『は、はい。インターンで学ばせてもらってます、立川と申します』


ガチガチになりながら、何とか挨拶をすると、隣からくくっと忍び笑いが漏れた。


『借りてきた猫』


思わず隣をにらみつけたが、村山さんは『どうしたの?』と涼しい顔だ。大事なお客さまの前で声を荒げる訳にもいかず、何とか自分の胸の中で押し止める。

宮下さんは目尻を下げた。


『あー、自分にもこんな時代があったなあ。インターン中に何かが芽生えて、村山さんに永久就職しちゃったりして』

『永久就職……?』

『お。いいですねえ、それ』


きょとんとする私をよそに、村山さんが妙に食い付いた。何だろう、村山さんがこういう態度を示した時は、大抵ろくなことにならないと私の勘が告げている。宮下さんは『通じないなら、もう死語かもなあ』と言いながら、頭をかいていた。


『お言葉に甘えまして。サナギちゃん、僕と結婚する?』

『……はああ?!』


大事なお客さまの前で思いっきり声を荒げて立ち上がった私を見て、宮下さんは盛大に吹き出した。


ーー本当、最低だ!


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