プラネタリウム
後編


彼氏・僚の携帯電話にかけたら、ワンコールで女が出た。
女の武器を駆使したようなしゃべり方で『僚くんに代わろうか』とか言うから、返事もせずに彼女・あたしの携帯電話の電源ごと切った。


日常によくある恋人のケンカだと思う。
友達に泣きついて事のあらましを話しても『痴話ゲンカお断り、仲直りしろ』と取り合ってもくれない。

分かってる。

そんなの浮気じゃないし、オトナなんだから嫉妬で喚き散らす事じゃないのも。

例えば、会社の飲み会のときに、隣にいた同僚(女)が、ふざけて出た、とか。

例えば、たまたま遊びにきてた従姉妹ちゃん(女)が、悪ふざけで出た、とか。

でもあの時は本当に胸はざわめき、頭に血が上って、心は痛いのを通り越してムカムカした。
後で僚から連絡が来たけど、落ち着けなくて全部無視していた。
いつもそう。
ケンカして怒るのはあたしのほう。
そして時間が経って謝りにくくなっているところへ、さり気なく僚が仲直りの合図を発する。だからつい甘えてしまうのだ。


でも今日こそは・・・。
あたしからちゃんと伝えたい。

ここへ来たことの“本当の意味”に気づいたから。




「・・・・・・連れてきてくれて・・・ありがと」
ブランケットに身をくるみそっと寄り添って、口ごもりそうになるのを何とか堪えてキス一つと一緒に伝えた。
その勢いに肖って僚に抱きつく。
規則正しい鼓動と程よい体温に愛しさが込み上がっていく。

「ゆきにしてはしおらしいじゃん。珍しー」
「・・・通常運転ですけど、ナニか?」
素っ気ない口調は照れ隠し。どうせそれも見透かしてるのだ、僚は。




初めてのデートは近場の山へのドライブだった。
帰りに見た星空に二人とも言葉を無くし、時が経つのも忘れて車の中から見上げていた。
『凄い・・・・・・天然のプラネタリウムだね』
『よっぽど気に入ったんだな。さっきから口開けっ放しだぞ?・・・スキありっ』

触れたか触れないか分からないような軽い口付け。

『っなっ・・・何よ急に・・・』
『急じゃなきゃいいのか。よし分かった。する?』
『なななななっっ・・・!!えっっ・・・っと車の中じゃちょ・・・』
『ぶっははははっ!!お前何想像してんだよ~キスですけど?』
『まっっっ!!紛らわしいのっっ!!』
『いやはやご期待に添えたいところですが・・・』
『いいっっ!!いいからっ!!!』
『はははっ、幸恵、落ち着けって』

僚が背中をさすり落ち着かようとするも、触れられた箇所が熱を帯びていくように熱い。
その反応に困ったように笑う僚と目が合い、今度は顔も火照り始める。頬に手を添えられて今度はしっかり唇が重なった。

『始まったばっかりだろ?俺ら』
『う・・ん・・・・・・でも、もしかしたらケンカして別れるかもよ?あたし短気だし』
『お前ね-・・・初デートで不吉な事言うんじゃねーの。そしたら仲直りすりゃいーだろ』
『・・・・・・・・・僚はモテるから心配だよ』
『俺はお前の短気で人の話を聞かない所が心配だ。・・・ま、でもそういうとこ引っくるめて惚れてるんですよ幸恵に』
そう言ってまたキスをする。
『ケンカが長引くようなら、星を見に連れてくか~』
『なんで?』
『ゆきは素直になるし、何より・・・』

今度はさらに深いキス。

『思い出すだろ?お互い“好き”だって事とキスがさ』

星が瞬く夜空に彩られながら、互いが眠るまで深く愛しい口付けに酔いしれた。




想い返していると、僚が笑みを浮かべてあたしを見ていた。
「で?俺に言うコトない?」
「は?」
「伝えられる時に伝えないと後悔するぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ゆぅ~きぃ~??」
「・・・・・・ゴメンナサイ」
「幸恵のそういうとこが可愛いんだよね。じゃ、いつぞやのご期待に応えますか」

忙しなく衣服の上を這い回る僚の手に、あたしの考えていた展開と違い狼狽する。

「えっ・・・りょ・・!期待ってっ・・・」
「さぁ?ゆきが一番知ってるんじゃない?」

そんな聞き方は狡い。本当に狡い。

でも。
ケンカしても仲直りしたいし、愛し続けて欲しいと思うのもこの男だけ。


後悔しないように、伝えよう。


「バカ。・・・・・・僚、大好き」




その後、帰り道でその女の正体を聞くと驚いた。
なんと、同僚で中性的な声の男性だった。
お酒の席でのハイテンションだったようで、からかい半分で出たとのこと。
なんと人騒がせな・・・いやあたしもだけど・・・と反省したのだった。


*終*


→あとがき
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