友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
のぞみがじっとこちらを見つめる。
それから琢磨に向かって歩き出した。
琢磨も歩く。
区役所の玄関の前で、また二人は再び会った。
のぞみは優しく笑う。
「何、泣いてんの」
「うるせ」
琢磨は目をこすり、笑う。
「ずっと好きだったよ」
のぞみの瞳にも涙が溢れて、頬を流れた。
「わたしも」
琢磨はのぞみを抱き寄せた。
腕の中で「まったく、面倒くさい男だなあ」と涙ながらにのぞみが愚痴る。
「バツイチになっちゃったじゃん。今行ったら、離婚届返してくれるかな」
「無理だろ。第一恥ずかしいし」
「すぐ無理って、言うー」
「賢く生きてんの」
琢磨は笑った。
なんの後ろめたさも、罪悪も、何もなく、ただ純粋に彼女を抱きしめる。
それは例えようもない幸福感。
きっと人はこれを「愛」と呼ぶのだ。
《完》

