アイより愛し~青の王国と異世界マーメイド~


『…分かっていた。だから、アタシは…約束したんだ。必ずまた、会おうと。いつか必ずまた会えると、その時はきっと…!』
『…ずっと一緒にいられるとでも? 神といえどなんて傲慢な思いあがり。リリス。心まで愚かな人間に侵されたのかい。きみ達の友情も約束もすべてもう手遅れだ。マナはもうどこにもいない。きみも――はやくこの海の泡となりなさい。そうしてすべて浄化(け)して綺麗になって、ぼくのもとへ還っておいで――海(ぼく)を捨てた愚かな娘よ』

 エリオナスのその最後の言葉と共に、海に大きな水柱がたつ。
 その中から水を纏った大きな生き物が顔を出し、次第にその姿を露わにした。
 その光景に、思わず目を瞠る。

 蒼い、竜だ。

 鈍色に光る銀の鱗。赤い瞳。うねる水面を叩きつける長い尾と鋭い爪。
 その背から伸びる大きな羽が、淀んだ空と海を割く。

 その光景はまるで空想の世界。
 だけどあたしにはもうずっと、そうだった。
 現実離れした世界で何度も。
 夢ではない痛みと真実にに泣いてここまで来た。

 だけど目の前の光景は、まるで。
 絶望が姿を現したかのよう。

 その光景に動けずにいる体を、容赦なく打つ水飛沫。
 それが目の前の存在の現実を伝える。
 だけどそれを感じているのはあたしだけ。
 すぐ傍らのリズさんは動じる様子もなくその様子を見つめていた。
 
『どうしてぼくが…ぼくだけが。欲しいものをなにひとつ、手にできないのか…』

 憂いを帯びたその瞳。
 その瞳があたしを見つめる。
 正確にはあたしにお母さんの面影を探して。

 エリオナスは一度その瞼を伏せ、つぎに開けた瞬間。
 そこからすべての迷いが消えていたのが分かった。

『すべての元凶はあの世界。やはりすべて壊してしまおう。もとのまっさらな世界にして…そこにまた、マナを呼ぶんだ。世界にふたりきりなら…きっとぼくを、ぼくだけを…愛してくれる。今度こそ』

 その言葉と共に蒼銀色の竜が咆哮を上げ、忽然と姿を消す。
 その竜がどこにいったのかを。
 嫌でも理解してしまう自分がイヤだった。

「やめて…! あの世界には…シェルスフィアには…! 大事な人たちが居るの…!!」
『きみが生きる世界はどこなの…? 守れるのはひとつだけだ。きみが選ぶ世界はひとつだけ。だからぼくが、そのひとつだけを残してあとは全部消してあげる。あとはぼくしか残らないように』

 すべて意のまま。それが彼という存在なのだろう。
 そこにあたしの意志はまったく関せず。
 あたしの答えなど必要もなく。
 最後にわらったエリオナスの、その姿が海に溶けていく。
 おそらくこの場所にあたし達を閉じ込めて、シェルスフィアにいくつもりなのだろう。
 自らの手で、審判を下す為に。
 すべてを消し去るために。


『それまでは…新しい世界ができるまでは。マナの代わりにぼくの傍に置いてあげる。マオ。愛しいぼくの娘』


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