永く青い季節 〜十年愛〜


帰り道、同じ電車に揺られ、彼よりも三区前の私が降りる最寄り駅が近づいて来た。
肝心な事は何も聞けないまま…

駅名を告げるアナウンスが入り、電車は徐々にスピードを落として行く。


「藤元先輩、今日はとても楽しかったです。ありがとうございました。
東京に戻っても、元気でバスケも頑張って下さいね」

電車が止まる寸前、そう言う私の顔を、彼は笑顔を浮かべて、けれど少しだけ戸惑ったような表情で見ている。


停車した電車のドアが開き、二人を掻き分けるように乗客が降りて行く。


「それじゃ…」

「うん……ぁ…」


彼が小さく何かを言おうとしたような気がして後ろ髪引かれながらも、他の客の迷惑になると思い、私は彼から目を逸らし背中を向けるとホームに降りた。
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