永く青い季節 〜十年愛〜


「お願いがあります」


彼女の白くしなやかな掌に、私は貰ったばかりの合鍵をゆっくりと乗せる。

私の宝物になる筈だったそれは、私の躊躇いなど素知らぬ振りで、私の指先をするりと離れた。



「これを彼に…。……彼のことを…」

“ お願いします ” と言おうとした言葉は、喉につかえて出て来なかった。



たった一日一緒にいて世話を焼いただけで、彼の役に立った気でいた。

彼女はずっと彼の側にいて、彼を支えて来たのかも知れないのに…。
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