永く青い季節 〜十年愛〜
彼女に頭を下げると、すぐに背中を向け、足早にロビーを歩いた。
彼女から顔を逸らした途端、また溢れて来た涙がエアコンの冷気に晒されて、頬の上で冷たくなる。
病院を出ると、突然夏の陽射しが容赦なく降り注いだ。
病院を取り囲む木々の上では蝉の大合唱が聞こえる。
強い陽射しの眩しさに顔を顰めながら見上げると、頭上には綺麗な夏空が広がっていた。
空をのどかに泳ぐ雲から目線を少しずつずらし、病棟に目を向けると、彼の部屋を探す。
ここからでは、どこの窓がそうなのか全くわからなかった。
昨夜、彼の腕に抱かれて病室から眺めた花火は、間違いなく同じこの空に浮かんでいた筈なのに、何もかもが今自分が佇んでいる場所とは全く別世界に思えた。