永く青い季節 〜十年愛〜



五年間の空白を経て、彼に会ったあの日、心の中に溢れて来た甘く切ない痛みは忘れられない。



「こんにちは、失礼します!今度こちらの担当になりま…した……」

受付カウンターの奥で、レッスン室使用予定表の確認をしていた私は、入口から聞こえた声に顔を上げた。


「……幸…」

「…美…織?」



一昨年あったOB会には、仕事もあり参加しなかった。
梨絵も澤井先輩とは別れてしまい、
光井先輩は海外赴任、
もう私と彼を繋ぐものは何もなくなり、
彼がどこで何をしているのか、全く知らなかったのだ。

人づてに、近況や聞かされたくない話題が勝手に耳に入って来るよりは、この方が心の安静が保たれる…そう思っていた。

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