God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭
既読スルー
急に腕のあたりが温かくなったと思って見ると、右川が俺の肩に触れて。
ぴと♪
もうそこで、カーッと血の気が上った。
「止めろよ!先輩の前で!」
さっきの余波も手伝って、マジギレ。いつの間にか、右川は手に再びゴム手袋を嵌めている。その手袋には何か怪しげなやる気スイッチでも付いてんのか!
「ごめんごめん。そんな怒んないでって」
先輩から謝られるという混乱に陥った。
「あ、違います違います。すみません」
俺は取り乱す事を止め、ずっと取り憑く右川を、見えない振りで無視。
「松下さんも永田さんも、今日は進路指導で、先生に呼ばれてるみたいで」
先輩は、右川の態度に気を悪くする事は無く、「あ、そ。お邪魔しましたー」と、やっぱり誤解したまま笑いながら去っていった。
その途端、右川はスルリと腕を離れる。
俺はもうド頭に来て、立ち上がった勢い、右川の手から辞書を取り上げ、バン!と机に打ち付けた。これが思った以上に派手な音がして、さすがに右川も怯えている。
仲間の話でお互い楽しく盛り上がって、普通に普通の女子と男子で、普通に仲良くできたら。俺と右川の間で、そんな、ささやかな願いは、もはや高望み。
イライラして、いたたまれない。
このまま行けば、また無益な言い争いになる事が、容易に想像できる。
掲示用のタイムテーブル表を掴んで、俺は生徒会室を飛び出した。
明日からステージでの練習が始まる。練習用ステージのタイムテーブル表、隅っこに固まるブタ模様を視界から追い出しつつ、体育館横の掲示板に貼った。
チラと館内を覗くと、今日はバスケ部の占領日のようで、「どりゃあー!」と、永田の鼻息が荒い。3年に引退の色が濃くなった途端に勢いづく2年がいる。分かりやすいヤツだな。
「今日は、バレー部は外か」
途端に、今日は出なくていいかな?と、甘え根性が出てきた。
こういう辺りが、趣味のサークル活動と言われてしまう所以かもしれない。
吹奏楽の妙なる調べをバックに廊下を行きながら、ついでに、クラスの1つ1つを覗いてみる。
音楽室では、ピアノ練習をバックに、どこかのクラスが飾り付けパーツを作成という、合同作業中。ある教室は、男子がクラスにぎゅうぎゅう詰めで、何やら黙々とプリントに書きこんでいる。
そこら辺の男子に声を掛けて集めるアンケート。
〝彼氏ゴハン №1を決定!〟らしい。
さっきもすれ違った……後輩男子はゴミ箱を抱えて、何度目かの往復中。
地球儀とスペースシャトルの模型を抱えて息切れした3年女子とは、階段の踊り場で立ち止まったまま、お互い無言で5秒間見つめ合ってしまった。
星型。差し入れ。花束。〝サーバルキャット〟のイラスト。彦にゃんのヌイグルミ。カレーは飲み物。ピコ太郎。レディーガガ。35億。
こんな文化祭の熱気を、少し離れた場所から眺めているのが、俺は好きだな。
途中、楽器と楽譜を抱いた1年男子に遭遇して、敬遠と畏怖の入り混じった笑顔を向けられ、いつものように、そこそこ(?)愛想良く応える。
視聴覚室の窓の隙間からこっそり中の様子を窺うと、熱血リハーサル中。
重森に気付かれないうちに退散した。
見て回るうちに当初のイライラは収まり、3時半を過ぎて生徒会室に戻ってくる。いつものように右川は消えていた。
あの不自然な態度は作りもの。そこまでは手に取るように分かる。だが一体何が目的なのか。それが分からない。嫌がらせとしか浮かばない。それを、一体いつまで続ける気なのだろう。
〝本命そっちのけで学校では別の顔〟
そんな二重人格がいつまでも続くとは思えなかった。
現に、さっきはずっと普通だった。三重人格なのか。サイコか。
その後、塾を終えて家に戻り、すっかり忘れていたスマホをONにすると、右川から何だか沢山ラインが来ている。
まさかと思うが、今日の事に関して詫びを入れるつもりとか?
そんな事、地球が割れても有る訳無いとは思うけど……少なからず期待して、俺は開いた。
『これから、アキちゃんと晩ご飯♪今夜は湯豆腐ときんぴら。超節約♪』
『アキちゃんに教わって、宿題をやっつけたっ。ご褒美にプリンです♪』
『お店の片付け、乙♪これからアキちゃんの新メニューを試食だよぉ♪』
これは一体どういうトピックだろう。
まるで〝右川亭メール・マガジン〟。
配信を頼んだ覚えは無いが、ラインは規則正しく1時間おきに送られていた。
ぼんやり眺めていると、またそこに配信。
『なんと!エクボを発見♪アキちゃんに、太った証拠だぞって言われちったぁ。くやし~!』
「へぇ~、エクボってそうなのか」
感心してる場合じゃない。
「てゆうか本人、今頃気付いたのか。くやし~とか言ってる場合じゃないだろ。少しは肉付けないと、おまえ女子力ヤバいんだから」
突っ込み所が満載だ。
〝進藤の彼氏って、どんな奴だった?〟
そう送りたい所を、グッと我慢する。進藤本人に聞けばいい事だし。
既読スルー。
絶対、返信しないからな!

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