God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭

「あの、実は、山下さんにお願いがあって」

右川亭通り(で、いいのか?)、PM 5:00。
午後から少し風が強くなって、普通に歩いていても目にゴミが入る。
それをこすると、ゴミというよりも、いつもの手荒れのせいでますます傷めそうになった。やっぱり、そろそろハンドクリームの出番なのかと、試しにコンビニ商品をリサーチに入った所、
「ありがとございやしたぁ~♪」
俺は何も購入していない。そして、おまえの店でもない。なのに顔を見るや否や、店員でもないのにお辞儀までブチ上げて、右川は俺を追い払おうとした。
恐らくスーパーで買い物帰り、相変わらずの大荷物で周りを寄せ付けない態度を取りながら、右川は雑誌を立ち読み中。そこを偶然、鉢合わせたのだが、こっちが嫌がらせにビクともしないでいると、右川は不機嫌な顔で雑誌を元に戻し、そのまま俺を無視して店を出た。
態度悪いゾ。
説教をカマしたい所をグッと堪えて、後を追い掛けた。
「その荷物、大変だろ。店まで運ぶの手伝ってやるよ」
この後の事を考えて、ここは気持ち良く助けてやるか。
見れば、買い物袋が両手に2つも3つも。そして、背中にはいつものリュックが、パンパン。また、何をそんなに買ったり貰ったりなのか。せめて、己のスペックを考慮しろ。右川は大荷物でバランスの取れない両腕にグラつきながら、「いえいえ、それには及びませんワ」と何だか急に、かしこまる。
「そ。じゃ、帰るワ」と試しに言ってみたらば、
「喜んでー♪」
「そうは行くか」
俺は、片手2つの買い物袋を強引にブン取った。「きゃ~、ドロボー」
これほど親切な仲間を、悪意で世間に売り飛ばすか。
人は見た目が9割とはよく言ったもので、誰も真に受けてなどいない。
叫び散らす右川を無視して、俺は勝手に歩き出した。背後からは、荷物をそこら辺の自販機やら看板やらにガサガサとぶつけながら歩く音がする。
店が近くなるにつれて、その〝後ろ〟は次第に大人しくなっていった。案外ラクちんだと、抵抗するのを止めたのだろう。手に取るように分かるな。
角を曲がり、誰も居なくなった所を見計らって、開口一番。
「誰が、桂木を狙ってんだって?」
最凶の目ヂカラで振り返った所、そこに誰の姿も無い。
まさかあの状況で逃げたのかと、慌てて元来た道を辿ると、角を曲った少し先、右川は荷物を降ろしてやけに寛いでいた。というか、手に負えない荷物に、とうとう根を上げたか。
そっちの出方次第では、また1つ、引き受けてやってもいいけど。
こっちを一瞥して、右川が再び歩き出した。
俺を待たせている罪悪感というより、チビだからこんな荷物も普通に持てないと見下されているという思い込みから来る対抗意識である。
「このリンゴが超重い~。両側に分けても、指が切れそう」
右川は愚痴りながらノロノロとやってきた。
「手伝ってくれって素直に言えばいいだろ」
仕方なく、俺が奪った袋と交換。「ウッ」これが想像以上にズッシリと来て、一瞬、腕が抜けそうになった事は否定しない。それもこれも、この後のためだ。
ここで、桐生からあの件、一部始終を聞いたと明かして、話を蒸し返す。
「俺は無関係だろ。巻き込むなよ」
「だってさ、キリンが全然、勇気出ないっつーか、危機感無いっつーか。で、ちょっと味付けしてみました♪実際あんたの目が桂木さん、狙ってたし」
「狙ってねーよ!」
双浜高へ伸びる大通りの中心で、俺は無実を叫んだ。
「それが原因で、俺が桐生に狙われたらどうすんだよ」
死活問題だ。女子絡みで疑われながら、仲間と仲良くやるのは無理がある。
店の前までやってきた。
「山下さん、今って忙しいかな」
「えーまぁ。たぶん接客中ですけど、何か?」
「ちょっと、話がしたいんだけど」
「わたくしがここで窺いますけど、何か?」
「いや、山下さんに直接言うから」
「申し訳ございません。仕事中なので」
って何だ、さっきから急に、耳障りなその敬語は。
ここでも説教をカマしたい所だがグッと堪えた。
「おまえさ、明日出て来ない?」
買い物袋をもう1つ引き受けて。
というか、それを口実に、店に入る前に1度、右川を引き止めた。
「ちょっと1組が大変でさ。女子が泣いちゃったんだよ。重森のせいで」
チラと見た。決意の行動に移す前に1度、右川の良心に訴えてみたのだが。
右川はグラつきながらこっちの買い物袋を一斉に奪うと、「どーもー、お世話サマっ」と、俺を無視して店に入って行った。
そうは行くかって!
「あ、いらっしゃい」
山下さんが居た。
ちょうどお客さんが途切れた所だと、後片付けの真っ最中である。
右川は買い物袋から次々と食材、ラップ(銀行?)、綿棒、インスタントラーメン、などなどを取り出して、あちこちに整え始めた。
「沢村くん、何か食べる?」
「あ、いえ」
そんなやり取りの間に、右川はリンゴをごっそり抱えて2階に消えていく。
そこを見計らって、俺はさっそく切り出した。
「あの、実は、山下さんにお願いがあって」
途端に、2階に続く階段からドタドタと音がして、「ちょっと!」と、右川が雪崩れ込んできた。
「ウソつき!まだ学祭終わってないじゃん!そんなら、あたしは何言われたって、やらないからね!」
化けの皮が一気に剥がれた。
突然の剣幕に、さすがの山下さんも面喰らっている。
「どうしたの?」
山下さんは、右川ではなく、俺に向かって問いかけた。
俺は頭の中で〝立候補のお願い〟、そして〝もう1つのお願い〟。
2つを天秤に掛け、そして占いにあやかって……でもないけど、ここでは行動と気持ちが〝一致〟している方を選んだ。
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