God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭
〝謎の期待感〟
7時をとっくに過ぎた。
文化祭も、そろそろフィナーレを迎える。
閉会式では永田会長が挨拶に立ち、「今年の双浜祭は、無事、終了しました。忙しい中来てくださった来客の皆様、開催に向けご尽力くださった先生方、ありがとうございます」と、阿木が考案した文面をスラスラと淀みなく読み上げていた。
それを、俺は生徒会室で……下は着替えたジャージ姿、上は真っ裸にバスタオルぐるぐる巻き、微かに聞こえてくる永田会長の声をBGMに模擬店の残り物を漁りながら、阿木、浅枝、右川と共にマッタリ聞いている。
お金は無事、俺が(身体を張って)取り戻した訳だが。「じゃ、帰るね♪」と逃げ出そうとする右川を捕まえて、ここまで連行してきた訳だが。
その道中、「嫌だ嫌だ!」と大声で暴れて、どのコスプレ・ギャラリーよりもキツイ注目を浴びた。
その注目に関しては、見苦しいチビというだけではなく、汚泥にまみれた俺の雄姿が貢献した事は言うまでもない。戻る先々で、「うわ」「ギャ」「キモ」と、右川じゃないが、俺はまるでバイ菌のように扱われ、挙句の果ては、「召喚獣・元カレ降臨!」と、永田バカからはバケモノ扱いでイジられながら、平常心をギリギリに保って生徒会室まで戻ってきたのだ。
汚泥は、運動部のシャワーを借りて洗い落とした。
右川は、浅枝からお菓子を渡され、阿木から温かい飲み物を貰った所で、やっと落ち着いたと見える。今は大人しく、いつもの定位置にちょこんと座った。
のんびりチョコを味わっているが、俺と一瞬でも目が合うと、いまだに怯える目で、そろそろと阿木の背後に隠れる。……もう、笑えない。
そこに、永田会長と松下さんが閉会式を終えて、生徒会室に戻って来た。
阿木は、ひそかに永田会長に相談していたらしい。そんな事だろうと察しは付いていたけど。
浅枝はすっかり泣きやんで落ち着いている。だが、右川と目が合う度に、「右川先輩が、あたしのために……」と目を潤ませた。
右川じゃないだろ!
俺は体が震えて止まらない。
お金が戻れば言うことは無いと、永田会長も松下さんも、「よかったな」「うん。よかったよかった」と、それをひたすら繰り返した。
それは、右川のハッタリ〝いつの間にか終わってくれちゃって、よかったよかった♪〟を彷彿とさせる。身体中が凍えて固まる気がするのは、寒さのせいだよな。絶対、そうだ。
突然、「みなさんっ!」とポッキーを握って右川が立ち上がった。
「次期会長、沢村くんが、カネ森に頭さげて20万円取り戻しましたっ!みんな拍手っ!」
右川に煽られて、周りが遠慮がちではありながらも一斉に反応、パラパラと手を叩く。
強引に、なすりつける気だな。
そうは行くか!
俺はバスタオルを薙ぎ払って立ち上がった。
「生徒会公認は、絶対に右川カズミでお願いします!」
俺の迫力が効を奏したのか、それとも上半身真っ裸にドン引きしたのか。
周囲の拍手がピタッと止まる。
阿木は、「ほらね」と、したり顔で永田会長の顔を覗き込んだ。
松下さんは意味深な笑みを浮かべ、浅枝はこの中で1番ホッと安堵する。
ポキッと、何かが折れる音がして、
「嫌だ!あたし絶対やらない。やりませんから。やらないよ。やるかボケ!」
四方八方、それぞれに言い方は違えど、右川もガチの本音で来たか。
「こいつは会長やるって言いました。俺はちゃんと聞いた。忘れたとは言わせないからな」
「あの時はそうでも言わないと、今頃あんたに殺されてるよっ!」
「大袈裟な。んな訳ないだろ。普通に考えて、ああなったのは勢い。冗談!」
「あ、そ。だったら、あたしの立候補宣言も勢いって事でよろくし。冗談。馬鹿馬鹿しい。くそツマんねー。会長なんてダサいもん。マジでやらない!」
本気で手が出そうになって、前のめりになる。
「ほら!ほらほらほらっ!これですよ!これ!これ!」
右川は、折れたポッキーを振り回して、
「この凶器が!あたしを閉じ込めて、襲い掛かってきたのっ!」
その瞬間、場の空気が一瞬で粟立つのを感じた。俺は、確かに感じた。
あれ?あれ?右川は、期待通りの反応が貰えないという意外性に戸惑い、周囲を窺って忙しく首を動かす。だーかーらー……!
「少しは考えろよ。そういう言い方だと、まるで別の意味に取られるだろ」
案の定、永田会長と阿木は〝閉じ込める〟と〝襲い掛かる〟に反応して、愉快にドン引き。
だが、
「そんなの嘘ですよ」
意外にも浅枝が冷静だった。
「沢村先輩は、そういう意味で右川先輩を襲ったりは、しないと思います」
俺を援護してくれるのか。なんて可愛い存在だろう。こうなったら重森の毒牙から一生守ってやってもいい。
ところが、
「だって、沢村先輩の好みは、これですよ」
浅枝は、永田の選挙活動DVDをテーブルに放り投げた。
〝巨乳・爆裂〟
生徒会室が揺れている。
永田会長も、松下さんも、あの阿木でさえ、大爆発で笑いが止まらない。
これはあんたのバカ弟が!と言い訳を挟み込む余地すら見出せなかった。
浅枝の一撃に、俺は秒殺で打ち落とされ、右川は暗に貧乳を晒されて終わる。
今後、石原も浅枝も、どっちがどうなっても俺は知らないからな!
「とにかく、そう言う事で」
松下さんが笑い混じりで、この場を無理矢理まとめた(?)。
思えば……執行部全員の前で、きっぱりと〝右川擁立宣言〟をするのは初めての事。これからは、もう誰に遠慮して隠す必要もない。こうなったら、あちこちにバラ蒔いて大パレードしてやる。
自分に降りかかるであろう、これからの後始末は、文字通り後回しにして……悪の介入を許さず〝正しい事〟で生徒会を一致させるのだ。
「右川には、何が何でも会長になってもらいます」
そう言い放った時、生徒会室の空気は〝謎の期待感〟で包まれた。
少なくとも、俺はそう感じた。
今までと違う恐怖に(?)右川の顔が歪んだ……気がする。
そして、YesともNoともつかない大きなクシャミを1つ、俺に向けて吹き散らした。

明日から、マスクしろよ。





<Fin>

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第7話 予告。
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年明けて、選挙戦。
「欲求不満の生徒会オタク。あんたの顔なんか、もう見たくない」



ご期待下さい♪
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