【完】こちら王宮学園生徒会執行部



また自分から犠牲になろうとしてる、と。

それを聞いたいつみの表情を思わず窺えば、何を思ったのかいつみは席を立つ。それから落ち着き払った様子で彼が向かったのは。



「……寝室?」



南々瀬ちゃんとふたりで使っている寝室。

わずかな物音が聞こえてきて、すぐにもどってきたいつみはチッと舌打ちした。



「やられた。

……あいつのキャリーケース無くなってる」



「え、」



「普段開けねえとこに入れてあったからな。

……俺が気づかねえようにちゃんと細工してやがる。ダチのとこ泊まるって言ったのも、俺が直接連絡取れねえのを分かってて選んだんだろ」



いつみは確かに頭は良いけど、なんせあの子は学年主席の頭脳を持ってる。

計算高いし、こうやって簡単にいつみを欺けるなら、探すのも一苦労だ。




「どうすんの?

あの子のことだから、絶対すぐに見つかるような場所には隠れてないだろ」



「だろうな。

……少なくとも、今日そのままどこか遠くに逃げた可能性は少ない。なら、」



いつみがスマホを取り出す。

それからおもむろに電話をかけ始めたかと思うと、相手がそれに出たようで、ふっと口角を上げた。



「南々瀬、いま大丈夫か?」



……え、南々瀬ちゃん!?

待って、直接電話してんの!?っていうかなんで南々瀬ちゃんはあっさり電話出んの!?



「ああ、お前俺のこと何歳だと思ってんだ。一晩くらいなら心配しなくても大丈夫だよ。

それよりお前、わざわざキャリーケース持って出たのか?」



……ああ、そうか。

南々瀬ちゃんは今日、"女友達の家にいる"という名目で家に帰ってこない。それなら、それっぽく振る舞うために、いつみからの電話に出るしかないわけで。



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