【完】こちら王宮学園生徒会執行部
なんて思っていれば、ルノが何か言うよりもはやく「夕陽」と呼んだのは呉羽で。
ちらりとそちらに顔を向けると、彼は困ったように笑っていた。
「もうやめときなよ。
そうやって突っかかるから、みんな言い返すんでしょ?」
「……だってルノが」
「だってじゃないよ」
新学期に入ってから、もう何度か見た光景。
いつもこうやって彼の発言を止めてくれるのは呉羽で、そのたびに文句を言いながらも、夕陽は口を閉ざす。
比較的相手を敵に回しやすいタイプの夕陽と、それをなだめてくれる呉羽。
どうやら呉羽には逆らえない何かがあるらしい。見えない圧力、的な。
結局今回も、「夕陽」ともう一度強く名前を呼ばれただけで、素直に夕陽は押し黙った。
1年組は本当に仲良しだ。
「でもよ〜。
さっきの夕陽の、"生態謎"って言葉はわかんなくもねえよな〜」
ここに住んでても部屋入らねえし、という椛の言葉に、確かにそうだなと納得する。
わたしも、金の王冠のプレートがかかる部屋に入ったのは二度だけだ。
しかもそのうち一度は、夏休みに玄関まで。
実質、彼が卒業する際に荷造りするのを手伝った一度だけ。
「ぼく、いつみの部屋に入ったことないよ」
「僕もありませんよ。
夕さんはよく押しかけてましたけど」
「……ルノ。
夕帆先輩は未だに押しかけてくるわよ」
同じマンションに住んでいるから、彼がいきなり押しかけてくることなんてザラだ。
まれに良い雰囲気になっているときにチャイムが鳴らされるから、先輩ふたりが口喧嘩していることもよくある。