【完】こちら王宮学園生徒会執行部
俺が玄関にいるから、逃げるのは不可能だ。
それをわかっている南々瀬ちゃんは、無駄に動こうとはしない。「下にいますよ」と言う彼女の左手薬指には、見慣れない指輪があった。
「いつみはどこ行ったんですか?」
「さあ。それが俺も知らねえんだよ」
「………」
「ってか、いつみの指輪は?」
問えば彼女は、ふっと押し黙って。
それから財布を置いてくるためか、俺を完全にスルーして、リビングへと入っていく。
──その、直後。
ドンッと物音がして、家の中がシーンと静まり返った。
「……南々瀬ちゃん?」
呼びかけても、返事が聞こえない。
不安になって慌てて靴を脱いで部屋に上がれば、彼女は完全に立ち尽くしていた。──テーブルの上に置かれた、"それ"を見て。
「ッ、」
物音は、驚いた彼女がうっかり財布を落としただけだったらしい。
偽の財布を拾い上げて彼女を見れば、立ち尽くす彼女の瞳からはぽろぽろと涙が零れ出す。
「……あきらめたら?」
テーブルに置かれていたのは、彼女が返したはずの指輪。
でもそれを見て泣いたわけじゃない。彼女が泣いてしまったのは、それに添えて置かれていた、記入済みの婚姻届だろう。
「……もういつみから離れるの、無理だろ?」