【完】こちら王宮学園生徒会執行部
彼がけろっとしているのが、不思議で仕方ない。
やっぱり元からある余裕の差なんだろうか、と。どうでもいいことを考えていられるのだから、本当に随分と平和らしい。
「じゃあ、行ってくるわね」
「ああ。いってらっしゃい」
身支度を整え、軽く家事を済ませていつもの時間に家を出る。もちろんお約束のキスはした。
名残惜しくてすこしだけ抱きついたら、「愛してる」と囁いてくれたから、しあわせだ。
気を抜いたら頬が緩みそうなくらいうれしい。
……昨日のいくみさんの言葉が、余計にその嬉しさに拍車をかけた。
『いつみね、本当にあなたのことが好きなのよ。
……あんなに誰かのために頑張ってる姿、姉のわたしですらはじめて見たんだから』
愛されてる。
その気持ちを疑うことを知らないくらい、どろどろに甘やかされてる。もちろんわたしだって、いつみのことが好きで仕方ないけど。
バスで学校に向かうと、同じ制服の子達に相変わらず声をかけられる。
随分と慣れたけれどやっぱり落ち着かないなと笑って、自分自身の襟に手を伸ばした。
もどってきた、わたしの生徒会のバッジ。
……王学関係者のアポを取るのに有利なのは知っていたけど、まさか政界の人間にまで有効だとは。
「……頑張らなきゃね」
いつみが頑張ってくれたんだから、今度はわたしが頑張りたい。
生徒会の仕事も、ようやく返事する社長の件も、この先の自分自身の進路も。
「おはよ、ナナ」
「あら、おはよう夕陽」
学校についてから、声を掛けてきたのは夕陽で。
生徒会棟に足を踏み入れて人目がなくなってから、わたしの腕に自分の腕を絡めてくる彼を見て、甘えただなあと小さく笑う。