お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
アホか…と呆れつつもドクターの手は治療を止めない。
それどころか動きを早めて素早く手袋をはめた後は、ぶっとい注射を手にして空気を抜いた。



「イソジン」


そう言うと看護師の原さんが「そこです」と後ろを指差す。

他には看護師さんがいないみたいで、ドクターは面倒くせーなと呟きながらも反対の手でピンセットを握り、茶色の小瓶から丸い綿を取り出した。


それを傷口の周囲に塗りつけていく。
うがい薬でもお馴染みの薬剤は、冷たいけどスーッとした感触だった。


「いいか、力を抜いとけよ」


(変に構えさせるような言葉を言ってんのはそっちでしょー!)


頭の中で思いきり反論してる間に、チクッと刺された注射からは麻酔と思われる薬剤が注入されてきて__


「いったぁ〜〜!!」


思いきり叫び声を上げた。


「煩い!黙れ!」


注射を抜いては刺していくドクターに黙ってられる訳がありません!と言い返しそうになったが……



「…あれ?」


最初の一、二刺しの後は痛みが感じなくなった。
プスプスと注射針が刺される感触はあるんだけど、それすらも痛いと思わなくなってきて。


< 14 / 203 >

この作品をシェア

pagetop