お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
ぎゅっと唇を噛んで寄ってくるドクターに目を向ける。彼女らしき人がすぐそこに居るというのに、私を追ってくるとは何事だ。



「…何ですか」


少しむうっとして訊いた。
ドクターは私の機嫌が悪いのに気づいたのか、一瞬だけ目を瞬かせた。


「いや、走るなと言いたくて」


そんなこと分かってるのに。


「大丈夫ですよ。足は労わります!」


また診療代を支払いに来ます、と言い返した。
さっさとエリナさんの所に戻れば!?って気分で。


「あの治療代なら要らねーって。湿布貼るぐらい家庭でもするだろ」


「でも、先生がしてくれたのは此処でだし」


しかも、二度目は藤田くんが診てくれるんだろうと思ったから来たのに。


「湿布とかテープとか、包帯も巻いて貰ったから払います!」


良心的なのは有難いけど、きちんとしたい。
そう思いながら言い切った。


「可愛くねーな、じゃあ勝手にしろよ!」


ムッと表情を渋くさせ、言い捨てるようにして逃げてく。

こっちはそれに向かって舌を出したくなる様な心境で、プイッと顔を背けて外へ出た。



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