お願いドクター、毒よりも愛を囁いて

トボトボとトイレから部署へ戻る私を見て、社内の誰もが振り返る。
心配そうに、どうしたの?と聞いてくる人には呼び止められ、事の成り行きを説明するのが億劫で仕方ない。


(やっぱり今週いっぱい休めば良かったかな)


やっと新商品の開発にこじ付けたもんだから休めなかった。

ずっと憧れ続けてた文具の世界で、自分が考えた商品が世に出ようとしてるのに、今此処で休むことなんて勿体なくて出来なかったんだ。

休んでる暇があったら絶対にヒットを飛ばす。

クル○ガとかテープのりみたいに、自分が手掛けたノートが素晴らしい逸品だと言われてみたい。




「…あ、ねえ波南!」


部署に戻ると柑奈が私を手招く。
隣には在庫管理課の同期生がいて、久し振りと手を振りつつも、どうしたの!?と驚いた。


「…ああ。うん、ちょっとね」


もう何度目と思うような説明を繰り返して言うのが嫌になった。
柑奈はそんな私に助け舟を出すかの如く、週末の合コンなんだけど…と話しだした。


「波南も行くことにしてたけどどうする?先週はお財布を無くして、今週はケガでお金が吹っ飛んだでしょ?」


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