お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「違いますよ。この手は今朝グラスで切って」


十針も縫われたんです…と言えば、全員が『十針!?』と声を揃えた。


「はい、まあちょっと傷がカーブしてたもんですから」


嫁入り前なのでドクターが丁寧に塗ってくれたようなんです…と言うと、皆は一様に安心してから笑い出した。


「もうっ、波南ったらー」


案の定、柑奈はゲラゲラとお腹を抱えて笑い転げ、先輩達は遠慮もなしに手を触ろうとしてくる。


「やめて!マジで痛いから!」


麻酔が少しずつ切れて痛みが戻ってきた。
縫われて痛いのか、切れて痛いのかは分からないけど。


「あんた、その手で仕事になるの?」


プレゼンは上手くいったわよ…と言いつつ、村田さんはどうよ?と聞いた。


「パソコンはまあゆっくりとなら打てると思うんですが、ペンを持つのは無理ですね」


人差し指を曲げれないんだ。暫くは手指を動かすなとも言われたし。


「また休む?」


「いーえ、仕事させて下さい!」


頑張ります!と鼻息を荒げる私を和田さんも先輩達も呆れてる。
同期の柑奈だけは笑い上戸が炸裂してて、ヒーヒーと泣きながらガンバレ!と言った。


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