お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「エリナが…」


閉まっていくドアの向こうを反射的に見遣る。
名前を呼んでたのはドクターみたいだ。



(今のは……さっきの女性の名前?)


茫然と立ち尽くしてしまった。

あの人でないにしても、名前で呼び捨てられる関係にある女性が彼にはいるということを、何処かしら軽いショックを感じながら受け止めた。


(そりゃ…毒を吐いてもイケメンなんだし当然か)


オフィスの先輩達も騒ぐくらいなんだからそういう相手もいるよね。

それに、その人は彼に時間外労働をさせたりもしないだろうし、院外でもメーワクを掛けたりしないよね。


モヤッと嫌な気分に襲われ、足早に診療代金を支払って外へ出た。

院外には憎っくき街路樹の根っこが相変わらずアスファルトを持ち上げて盛り上がってる。

それを見つめながら改めて自分の知らないドクターの世界があることを思い、ぎゅっと胸が押し潰されたように痛んだ___。



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