お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「特に時間外労働はさせるな!」


「あれは完全に不可抗力ですって〜」


根に持つなぁ…と言うか、そう言えばこの間もお世話になったんだ。


「あの、先生。この間は…」


「あっ、ちょっと待て!」


「ひっ!」


いきなり椅子から立ち上がった人が、覆い被さるようにして肩を抱く。
ビクッ!と大きく肩が跳ね上がり、それを見た原さんともう一人の看護師さんが声を発した。


「せ、先生?」

「どうかしました?」


「……いいか。その話はするな」


耳元でそう囁き、もう済んだことだと告げる。
こっちはドクターの息が耳朶に掛かり、異様な程に胸が鳴ってた。


「納得したか」


耳から口元を離して問い掛ける。
ブンブンと首を縦に振ると、「よし」と満足そうな顔を見せた。


「何ですかぁ?意味深な」


原さんはそう言ってドクターの顔色を窺う。
彼は何でもない!と言い張り、椅子に座り直してデスクに向かった。


呆然とした状態で診察室を出た後、藤田くんはドクターに話しかけてるみたいだった。

ちらっと女性の名前が聞こえ、ピクッと耳が反応した。



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