気付けば、君の腕の中。


じわりと涙が滲むと、奈々美があたしの両手を握り締めた。

奈々美の瞳が潤んだのを見て、やっぱり彼女は友達思いなんだと、胸が温かくなる。


「そんな、苦しいことっ…何で教えてくれなかったのよ!! 絢華、ずっと苦しかったのにうちってば、何も知らないでっ…」

「ううん…奈々美、あたしはもう大丈夫だよ」


いつか凜くんが言ってくれた「大丈夫」という魔法は、今もあたしの中で生き続けていた。


「…確かにお姉ちゃんが出て行ったのは、あたしたちの住んでいた家から逃げ出したかったからだと思う。
初めは身勝手だとか、あたしを置き去りにして酷いと思っちゃったけど…今は違うんだ」


幼稚園に行くと、白くんが出迎えてくれる。

園児たちと一緒にいると、心が安らぐのだ。


そういう経験をしたからこそ、あたしがどれ程自分を中心にして考えていたのか、周りが見えていなかったのかを痛感した。


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