気付けば、君の腕の中。
彼を視界に入れて、あたしは目を見開かせた。
何で…、あたしの名前を……。
何かを言う前に腕を掴まれて、そのまま教室を飛び出す。
目の前を歩く五十嵐くんが、ぐにゃりと歪んで見えない。
鼻の奥がツンとして、あたしの瞳からぼろりと涙が零れ落ちた。
「…泣き虫」
「っうる、さい……、それより、何で、名前で呼んだ、のっ…?」
「別に……、気まぐれ。つーか、応援出来ねーならすんなよ。本当はあいつらが付き合ってるの、嫌なくせに」
「ちが、あた、しはっ……」
美術室に入ると、やっぱり誰もいなかった。
五十嵐くんはあたしの腕を離して、そのまま窓を開けた。
「あーいう噂なんて、付き合ってるならぽんぽん出てくるもんだろ。今更気にしてたってどうにもなんねーんだよ」