気付けば、君の腕の中。


いつも通り五十嵐くんと一緒に美術室を出て、鍵を閉めた後、職員室へ向かった。

開いた窓から風が入り、あたしの髪を揺らす。

奈々美が教えてくれたトリートメントを使ってみたら、あれほど痛んでいた髪は綺麗な艶が出るようになったのだ。


それが嬉しくて、今では三日に一度使うペースで続けている。


つい、鼻歌を口ずさむと、五十嵐くんが「すげー音痴」とバカにしてきた。

確かに…、音痴だと自覚しているけど、はっきり言うなんて…。


むっと唇を尖らせて、五十嵐くんに視線を向けようとした。


あたしの足がぴたりと止まる。

こちらに向かってくる足音が消えて、あたしたちの間に静寂が流れた。


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