気付けば、君の腕の中。
小さな返事を聞いてから、あたしは美術室を後にした。
冷え切った廊下を一歩進むたびに、足の先から体温が奪われていく。
先輩がいたあの日々はあまり思い出せない。
ただ、先輩には本当に好きだった子がいて、あたしは不器用な彼の背中を押してあげた。
ずっと好きだったくせに、先輩は「振られたら辛い」とか「至近距離で見れない」なんてらしくもないことばかり言って。
告白されたときから先輩はあたしではなく、違う誰かを見ているような気がした。
…誰かの面影を重ねられるのは慣れているのにね。
結局、先輩は本当に好きだった子と付き合って、一年間付き合っていたあたしは呆気なく振られてしまった。
そんな時あたしを救ってくれたのは―…、他でもない。
「…おい」
背後から聞こえた優しい声に、あたしは呼び止められた。
「またマフラーしてねえのかよ…、ったく。
俺の貸してやるから、帰んぞ」
振り返ると、やっぱりそこにいたのは月城だった。