雨の降る世界で私が愛したのは
例えば人は悲しいとき涙を流す。
この涙は涙腺と副交感神経の(中略)わたしが取り組んできた研究から言えることは、人とは異なった生物学的構造を持つ動物の感情を正しく人は認識できないということだ。
例えば猫は驚きや恐怖を感じたときしっぽの毛を逆立て大きくする。
人にはしっぽがない。
猫と同じような表現方法はできない。
猫は思うだろう。
人は驚いたり恐怖を感じたりしない(またはできない)動物なのだ。
このような考えがいかに浅はかなものであるか。
話を死に戻そう。
死=悲しみ=涙といった一連の生理現象は人に限られたものであり、それと同じ一連を辿らない動物が死を悲しんでいないわけではない。
全生物の上に君臨する共通感情表現など存在しないのだ。
(中略)わたしの人生を変えた最も崇高な精神の持ち主の話をしよう。
わたしが十七の時わたしは彼と出会った。