雨の降る世界で私が愛したのは
ビニールの持ち手の一つがちぎれて中身が地面に転がり落ちた。
大きな水溜りに転がったじゃがいもを拾おうと屈むと自分の顔が映った。
子どものように短く切られた髪。
じゃがいもに伸ばした指先はささくれていた。
屈んだ一凛の背中に浴びせかけるようにテレビ画面から声が聞こえてくる。
『さすがアニマルサイコロジスト第一人者の先生です。今日はありがとうございました』
重たい石が喉につっかえたような閉塞感を感じた。
もう戻れないのだ。
目の前のじゃがいもに手を伸ばそうとしているのに届かない。
初めてイギリスに渡った日のことを思い出した。
刺激的な大学生活。
枯れない泉のように湧きあがる探究心、それに応えてくれる環境と一緒に歩んでくれる仲間たち。
評価されたときの達成感と絶えない人々からの称賛の嵐。
先生、一凛先生と目を輝かせて見られることが日常だった毎日。