雨の降る世界で私が愛したのは
が、そのとたん、また雨は思い出しように激しく降り始めた。
以前よりも激しさを増した降り狂う雨に人々は圧倒された。
そしてまた慌てて
「やはり生け贄が必要だ」
と騒ぎ始める。
人々が生け贄の準備を始めたとたん、雨はぱたりと小雨になる。
今度は騙されまいとちゃくちゃくと準備を進めるが、傘をさす必要もないほどの霧雨が二ヶ月以上も続き、川もすっかり水位を下げると、人々は儀式のことを忘れて日常に戻る。
するとまた雨の龍神が首をもたげる。
そんなことを繰り返した。
一凛が失踪してから十ヶ月が経とうとしていた。
その日ほのかは一凛とハルが暮らしていたという町にいた。
一凛がいなくなってから実はもう何度もこの町に足を運んでいた。
一凛がここに戻って来るのではないかという思いが捨てきれなかった。
この日もほのかは一凛とハルがいた部屋の前まで行き何をするわけでもなく引き返してくる。
階段を降りている時、下の部屋の扉が開いた。
「あの」
ほのかは出て来た住人の男に声をかけた。