【完】麗人、月の姫



自分以外の誰かの部屋に行くのは、そういえば初めてだ。


私の部屋とは逆方向に廊下を進む。

この辺りは未だに来たことはない。


「ここを右」

他にも部屋がたくさんあり、恐らく男子専用の部屋領域っぽい。


「ここだ」

隅の方にポツンとある蓮さんの部屋。


私の部屋とは違って木のドアだ。

_____ガチャ……。

蓮さんは懐から鍵を取り出すと、ドアを開ける。

中はたくさんの本が入った棚と資料が積まれた机、そして布団という仕事専用の部屋みたいな感じだった。

「もういい。お前は宴会に戻れ」

確かに部屋についたからいる必要もない。

でも、気になる。

もしかしたら今も平気な顔して辛いんじゃないかって。


「…………なんだよ」

「あ、いえ………ちゃんと寝てくださいね」


そう言って部屋から出ようと背を向ける。

そんなときふと、資料が積まれた机の端に置いてあった古い写真に目がいった。


そして、その瞬間私は驚きを隠せなかった。

だって、そこに写っていた人が______……………、







私がよく見ていたあの夢の人だったから。


金色に近い綺麗な男の人と、艷やかな黒髪の綺麗な女の人のツーショット写真。

この女の人は初めて見るけど、男の人は何度も夢に出てきた。

切なそうだったり、嬉しそうだったり。

でも、なんで私は知ってるの?

この人は一体_____………………。

「どうした?」

頭がズキズキ痛む。

そして、あの時の声が聞こえる。

『………………俺もここまでか』

とても辛そう……………。

そして、時折苦しそうな声も聞こえる。

これを聞くと、不思議と悲しくて涙が止まらなくなる。

「だ、大丈夫か………っ!?」

いきなり泣き出した私に、蓮さんはスゴく心配そうに見てきた。

そして、無意識に発した言葉。

「……………………美月(みづき)」

その言葉が何だか分からないけど、心の奥がギュッ…………となった。

この感覚は何?


「お前………………何で知ってるんだ?」

私が発した言葉に対し、蓮さんは驚きを隠せないような表情をした。

「この写真の男は美月。麗人の姫、麗咲様の専属護衛人だ」

麗咲…………?


「その男のことは知っといて、姫のことは知らないのか?」

「……………うん。この人はよく夢に出てきていたから知ってたの……」

「夢に……………か。不思議だな。陰人に攻められたとき、美月さんは麗咲様を命からがら逃したと言われている。実力もあり、とても優秀な騎士だったそうだが、それにより命を落としたらしい」


…………………あの夢はもしかしたら麗咲さんの視点だったのかな?

でも、なんでそんな感情までもが私の中で感じるのだろう?


一体何の関係があるっていうの?私が麗人だから??



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