記憶の中の記憶
「それは、誰が言ったんですか?」

先生は、カルテの数ページ捲った。

「家族状況を伺ったのは、津山賢人さんとなっていますね。」

「賢人が……」

「聞いてなかったんですか?」

私は両手を握りしめた。

「まだ、そこまで余裕がなかったものですから。」


私には、両親や兄弟がいない。

思ってもみなかった。


「それは市田さんも、驚いたでしょう。」

「はい……」

それからしばらく、私も先生も、無言だった。

先生のカルテを書く音だけが、診察室に響いていた。

「では退院の事は、ゆっくり考えて下さい。必ず退院してくださいとか、もっと長く入院しろとか、そう言う事ではないのでね。」

「はい。有り難うございます。」

私は先生に頭を下げ、診察室を出た。


私には、家族がいない。

天涯孤独の身なのだと、聞かされたのに、なんだか腑に落ちない感じ。
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