記憶の中の記憶
途端に自分の足元が、透明なガラスになって、その上を危なっかしく歩いているような、そんな感覚を覚えた。

これも、自分の記憶がないからだと、全てを記憶喪失のせいにしたかった。

自分が何者なのか、全く分からない。

これから、どこへ向かうのかも、分からない。

雲の上をふらふら、ふらふらとさ迷うかのように、病室の廊下を歩いた。


「珠姫。具合でも悪くなった?」

賢人に声を掛けられ、我に返った。

「あっ、いつの間に……」

考え事をしていたら、知らぬ内に、診察室から自分の病室まで、歩いて戻っていた。

「だから、僕も付いて行くって言ったのに。」

賢人は私の脇に腕を入れ、ベッドまで連れて行ってくれた。

「どうだった?診察。」

私の顔を覗き込んだ賢人に、今はほっとするようになった。
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