【短】イノセント
何か言いたいのに、完全に真っ白になってる頭じゃ何も浮かんでこなくて、そんな自分が凄く嫌で。
「犬井…あたし…」
もう一度そう繰り返して、恐る恐る彼の方に顔を向く。
ずっと俯いていたから気付かなかったけれど、彼はしどろもどろなあたしをじっと見つめていて。
普段ならほとんど感情を汲み取れない彼の、その顔があまりにも真剣だったから…。
「あたし…」
ボトルを持つのを止めて、ぎゅっとスカートの裾を握り込んで。
彼の顔を見つめながら…言葉を探した。
訳の分からない高揚感で胸がいっぱいになって、緊張して自分の心臓が耳の裏にあるみたいに、ドクドクと響いてる。
口を開けたり閉じたり、何度も試みるけど喉が痛いくらいに渇いてしまって、あたしの口から言葉が出ることはなかった。