【短】イノセント
「……長野…」
「え…?」
段々と俯き加減になってしまったあたし。
そんなあたしを見兼ねたのか、小さく息をつくと彼が静かに言う。
「今日は遅いから、もう帰ろうか?…送るよ」
「あ、ちょ…」
「どうせ、バス停までは同じ方向だし…手伝ってくれたお礼に、そのくらいさせてくれよ」
苦笑にも似た笑みであたしを見つめて、そう呟くように続ける彼。
申し訳ない気持ちでいっぱいになって、結局それ以上のことが言えなくなる。
その後、少しだけ気まずい沈黙を抱えながらも片付けをして。
彼に促されるまま準備室を出て、そのまま並んで廊下を歩き出した。
背の低いあたしを気遣ってくれてるのか、ゆっくりとしたペースで隣をキープしたままの彼。
そんな彼の横顔を盗むようにちらり、と見つめて…小さな溜息をついた。