【短】イノセント
「うひゃ…ッ…あ、い、犬井…あの…ごめ…」
びくりと身を竦ませて、少しだけ困ったように彼を見つめれば、彼は…。
ほんの少し…淋しそうな顔を浮かべてあたしを見つめていた。
「…いや。…こっちこそ驚かせてごめん…それより…大丈夫?寒そうだけど…」
「え、あ…うん。大丈夫だよ?…でも…やっぱり、夜になるとちょっと寒いね…」
はぁ、と冷たくなった指先に息を吹き掛けて笑い掛けると、彼もふっと笑い返してくれた。
それだけで、ほんのりと胸の奥の方が温かくなる。
それから、肩を並べて昇降口まで来ると、互いに無言で靴を履き始める。