2月14日の小さなわがまま
 彼は後ろから私を抱きしめる。
「俺のマネージャーがどれだけ気が利く人か、どれだけ俺を嬉しがらせているか、世の中に知らしめたかった」
 わかるよ。君のことだもの。

「記事に目を通しているときの私の反応、わざわざ雑誌を取り上げて覗きこんで確かめたものね。いい趣味してる」
「そんな俺だから好きになったんだろ」
「私の性癖のせいみたいに言うのやめようか」
 抱きしめる腕は簡単にはほどけなかった。大勢のファンがありながらも私を選ぶという彼の覚悟そのものみたいだった。
 先に観念したのは私のほうだ。

「そうだよ。好き。大好き」
 体をよじり、彼の顔を見つめる。抱きしめられるのは慣れている。思ったとおりの位置で彼が待っていた。
「だから、バレンタインのときくらいは私だけを見ていてよ」


 彼はいつかの日みたいに微かに頬を染め、私のあげたチョコレートを目の前でつまんでみせた。
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