トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「可愛い子……拓人さんに本当に良く似てるわ。


顔も、声も。


ねぇ、もう少し何か話して。」


嬉しそうに笑う声に悪寒がした。この人は未だに俺の父親の影を追ってる。


「……気が済むようにしてください。」


「ねぇ、気が済むわけないでしょう?

あなたさえいなければ、私は捨てられずにすんだのに。」


かつて母だった人は、怒りに任せて俺の脇腹に刺さったままの刃物を乱暴に抜いた。


「ぐっ……!」


刺さった時よりも腹部への衝撃は強く、上体が傾く。


「お兄ちゃん!!

やめて、もうやめて……」


瑞希が背後で叫んで暴れている。


「ッ……動かないで。危ないから。」


振り向いてどうにか伝えると、今度は太股に痛みが走った。


「……!」


「余所見しないで。その女は本当に邪魔。」


今すぐこの人を取り押さえないと瑞希が危険だ。


それがわかっているのに、全身の力を振り絞っても体が動かない。まるで母に呪いでもかけられたかのように手足の感覚が無くなっていくばかりだ。



「邪魔なのは、あなたです!

兄に、あなたは要りません。」


俺の背後から抜け出してしまった瑞希が、あろうことか母の目の前に立ち塞がっていた。
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