トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
「お兄さんの身の潔白を証明してただけ。

だから、指一本触れてませんとは言えないけど。」


そう言われた兄は私を正面から見据える。


その視線に晒されるのが恥ずかしくて、髪の乱れを急いで直した。シャツのボタンが2つほど空いてしまっているので、急いでとめる。



何か言わなきゃと考えている間に、兄はさっと視線をそらしてしまった。



「頼まれてた書類、持ってきた。」



今伝えたいのはこんなことじゃないのに、他に言葉が見つからない。



「ああ、わざわざ悪かった。すぐに帰るぞ。少し待ってろ。」



不機嫌そのものの声で兄が答える。



「帰るって……私、午後は大学の講義に出る予定が……」



「バカ、そんな顔で外を歩かせられるか。今日は帰るぞ」



そう言うとすぐに、兄は部屋を出ていってしまった。




………そんな顔って、私は今そんなにひどい顔をしているんだろうか。




「ひどい顔っていうか、エロい顔?」



篤さんが笑いを含んだ声で答える。
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