トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
病室に戻っても、兄はなかなか要件を切り出そうとしない。


「手に持ってるの、篤が持ってきた花?」


「そうだよ。萎れた花を避けたら、こんなに小っちゃくなっちゃった。」


「あいつも、始めからそれくらいの大きさのを持ってくればいいのに。」


そう言いつつも、兄に花瓶を手渡すと大事そうに花を眺めている。


「まさかお兄ちゃんの好きな人って篤さんじゃないよね?」


兄はぎょっとした顔で固まった。


「違う、ぜんっぜん違うっ!! その発想が怖すぎる。」


「あはは。いい線いってると思ったのに。

ところで、どうしたの。話って。」



「……瑞希の誕生日が近いなと思って。」


「そんなこと? まだ1ヶ月以上先だよ?」


「でも、二十歳だ。義父さんと義母さんがいたら盛大に祝っていたはずだし。

成人の記念に、何か欲しいものでもあるか?」


「それならお兄ちゃんにご飯とかケーキとか作って欲しい。」


そう返すと、兄は少しだけ悲しそうな顔をした。


「欲がないなぁ。この際高いものでも構わないのに。」


「いいよ。そういうのは。お兄ちゃんが選んでくれれば何でもいいし。」


「瑞希が喜びそうなものって、食べ物以外だとなかなか思い付かないんだよなぁ……。」


「もう、私が食い気ばっかりみたいなこと言わないで。


でも、わざわざ考えてくれてありがと。こんな時なのに。」


「いや、瑞希には入院で世話かけっぱなしだから。


本当にありがとう。」
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