トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
何故、瑞希への想いにこんなにも罪悪感を抱くのか、自分でもその理由は分かりませんでした。


義父さん、義母さんへの後ろめたさや、兄と妹という関係を大事にしたいということ、そういう真っ当な理由も勿論あります。


しかし、そういったことを抜きにしても、俺が瑞希の隣に居てはいけないことは直感として知っていました。


その理由は母親と会った時に思いがけずに理解したのですが、俺は母と全くの同類なのです。


瑞希も見ていましたね、あの人の醜悪なさまを。


あの狂気と同じものが自分にもあって、執拗に瑞希を求めるのがわかるのです。それは、恋愛とか依存といった言葉で片付けることのできない何かで、決して、君の側にあるべきものではありません。


瑞希の前では俺のそういった側面を見せたことは無かったので、君は理解し難いかもしれません。


しかし、例えばこの前の事件の日、瑞希に盗聴器を仕掛けた犯人に対して俺は狂暴な仕打ちをしました。


あの時、駆けつけた人達が俺に怯えたのが分かっていました。それでも自分を止めようがなく、冷静になって振り替えるとあれはただの狂気でしかありません。



そのため、このような手段で瑞希から、というよりも自分の本性から逃げることにしました。


瑞希は納得いかないと思いますが、怒ってもいいのでどうか悲しまないでください。馬鹿だと笑ってくれれば本望です。


ちなみに、この機会に名前も変えることにしました。義父さん、義母さんや瑞希と同じように黒須の姓を名乗るのは、俺には綺麗過ぎて似合わないので。


ですから、今は君の兄ではなく、ただの拓真としてこの手紙を書いています。
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