トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
まだお礼を伝えられていませんでしたが、あのとき、俺が不甲斐なく震えていたときに、母親から守ってくれてありがとう。


ヒーローのようにと言うと瑞希は心外かもしれませんが、まさにそんな感じに俺は救われました。


あのとき瑞希が言ってくれた言葉も、宝物のように大事に覚えています。


俺は薄情なのか、肉親への情というのは実感できませんが、今後も母親が君に危害を加えることの無いように、身内として責任を全うしたいと思っています。


もう一人の加害者についても、瑞希への危険が無いように対処しているので、もう気にする必要はありません。


なお、この二人については、すべて弁護士を介しての対応となるので、俺から接触することはありません。


もうひとつ事務的なことを付け加えると、黒須家の資産について瑞希はよく知らないと思うので、後日、弁護士から君に相続の説明をして貰う予定です。



義父さんと義母さんは、これから先、瑞希が自分の人生を歩んでいくのに十分な額を遺してくれていると思うので、やりたいことや、今後なりたいものなど自由に考えてみてください。


演技の仕事だけはあまり薦めませんが、不得意な分野にあえて挑戦するというなら、それも君らしいかもしれません。


俺もこの仕事はそれほど向いていない気がするので、この機会に辞めて、今後は料理の勉強を始める予定です。


将来、もし瑞希に偶然会うことがあるなら、その時には今よりも美味しい料理をご馳走できるように精進するつもりです。


今後は君を見守ることができないのが心残りですが、君を大事に守ってくれる人は案外側にいるもので、その男は派手な外見とは裏腹に、とても繊細で誠実な奴なので、何か困ったことがあれば彼を頼るといい。


君の人生が、いつでも幸せと共にあることを願っています。


俺は、瑞希から貰った思い出だけでもう十分幸せなので、これからも笑って生きていける気がします。


さようなら


拓真
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